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水戸地方裁判所 平成8年(わ)837号 判決 1997年7月15日

被告人

氏名

松金節男

年齢

昭和二四年四月二四日生

本籍

茨城県鹿嶋市大字平井一一二八番地一六四

住居

水戸市城東三丁目五番八号 城東ロイヤルハイツ二〇五号

職業

個室ビデオ店経営

検察官

佐藤光代

弁護人

井坂啓(私選)

主文

被告人を懲役一年及び罰金二〇〇〇万円に処する。

罰金を全額納付できない場合には、一〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

懲役刑につき、この裁判確定の日から三年間その執行を猶予する。

理由

(犯罪事実)

被告人は、個室ビデオ店を経営する傍ら商品先物取引を行っていたものであるが、自己の所得税を不正の行為により免れようと企て、虚偽の所得税確定申告書を提出するなどの方法により右商品先物取引で得た所得を秘匿した上、平成六年中における総所得金額が一億八二五六万六四〇九円で、これに対する所得税額は八四四六万九〇〇〇円であるにもかかわらず、平成七年三月六日、水戸市北見町一番一七号所在の水戸税務署において、同税務署長に対し、その総所得金額が六五七万五一六三円で、これに対する所得税額が五一万九三〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって不正の行為により正規の所得税額と右申告税額との差額八三九四万九七〇〇円を免れた。

(証拠)

1  被告人の

(1)  公判供述

(2)  検察官調書(平成八年一〇月三〇日付、同月三一日付、同年一一月七日付・二通、同月一二日付・二通、同月一五日付、同月二〇日付、同月二一日付)

2  綿引隆二の検察官調書六通

3  池田孝の検察官調書二通

4  水戸税務署長作成の回答書二通

5  関東信越国税局収税官吏大蔵事務官作成の検査てん末書、商品先物取引売買損益調査書

6  検察官作成の通信費調査書及び雑費調査書

7  検察事務官作成の捜査報告書

(法令の適用)

罰条

所得税法二三八条(懲役と罰金を併科)

労役場留置

平成七年法律第九一号附則二条一項本文、同法による改正前の刑法一八条

執行猶予

懲役刑につき、平成七年法律第九一号附則二条一項本文、同法による改正前の刑法二五条一項

訴訟費用の不負担

刑事訴訟法一八一条一項ただし書

(量刑の理由)

本件は、個室ビデオショップ経営の傍らしていた先物取引による一億七〇〇〇万円余りの所得を隠し、個室ビデオショップの所得のみを申告し、八〇〇〇万円余の所得税をほ脱したという事案である。先物取引の資金が、それまでに納税申告せずに蓄えた資産であり、およそ申告するつもりがあったとは考えられないことや、免れた税額が高額であり、ほ脱率も九九パーセントを超える高率であるから、悪質な脱税事犯であるといえる。申告納税制度は、納税者を信頼する納税制度であるところ、その信頼を裏切ったもので、納税制度の根幹を揺るがす行為であり、国家の財政的基盤を掘り崩しかねない。被告人の刑責は重いものがある。他方、被告人も正確な所得金額を把握していなかった節が窺われ、それまでの取引状況に照らすと、たまたま先物取引が当たりに当たって取引を広げたことから思わぬ高額の所得になったためにほ脱額、ほ脱率とも極めて高い悪質な脱税事犯になってしまったという側面があること、被告人も今では事態の重大さを認識して反省していること、これまで前科がないことなど被告人のために酌むべき事情も認められる。以上の諸事情を総合考量すると、懲役刑についてはその執行を猶予して社会内での更生の機会を認めることが相当であるが、罰金刑については、この種事犯が経済的にも引き合わないことを明らかにするため、執行を猶予しないことが相当である。

(求刑 懲役一年及び罰金二五〇〇万円)

(裁判官 飯畑正一郎)

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